「点字毎日2011年2月20日号、同活字版2月24日号掲載」
「無断転載や引用を禁止します」 写真3枚は省略 2011.03.01


もの作りの現場からーー「パームソナー」「パームチップ」


 視覚障害者の歩行を補助する道具として開発された「パームソナー」と「パームチップ」。愛用者もいる一方で、その存在や使い勝手は十分知られていない。第33回は「パームソナー、パームチップ」開発現場の様子や開発者の思いを伝える。(佐木 理人)

 ■目立たずに使える

 JRと湘南モノレールの走る大船駅から車で約10分、工場地帯の一角に立つ民家が「パームソナー」と「パームチップ」で知られる(有)テイクス社(横浜市栄区)だ。

 パームソナーは、手のひらに装着する超音波ビーム振動式の電子歩行補助具。本体のサイズは、幅31ミリ、厚さ20ミリ、長さ77ミリと小型で、重さは50グラム弱。マジックテープで手のひらに固定し腰骨辺りに構えて持つ。「パーム」には「手のひら」のほか「(手のひらで)隠す」の意味があり、「目立たずに使える」という特徴も表している。また「ソナー」が示すように、本体前面の穴から超音波を出し、それが物体に反射して振動を起こす。超音波の長さは、40センチから4メートルまで7段階に変更でき「こつ、こつ、こつ」という独特の振動パターンも変化する。超音波の届く範囲に何もなければ、振動しない。

 そんな仕組みの補助具は、白杖(はくじょう)で1人歩きする際に障害物や人を感知したり、列に並んだ際に前の人の動きを察知したりするのに用いる。熟達した人では列車内の空席を見つけることもできる。防滴加工なので雨天時も使用でき、傘と一緒に持てる専用のグリップもある。コイン型のリチウム電池一つで動き、1日2時間の使用で2週間以上稼動する。

 ■こだわりの組み合わせ

 一方、パームチップは白杖の先端に取り付けるマッシュルーム型の道具。太さ40ミリ、全長55ミリで重さは約20グラム。「きのこの傘のような頭部分には、すべりがよく長持ちする『超ポリマー』を、首にあたる部分には弾力のあるナイロンを使用」。いずれも、市販の白杖で使われている素材から、各部位に最適なものを採用した。苦心したのはこれらをつなぐクッション部分で、暑さや寒さに強い発泡合成ゴムを当てた。こうしたこだわりの組み合わせで、白杖の先が路上の出っ張りに突っかからず、へこみにはまることのないスムーズな歩行を実現した。

 「パームチップを付けた白杖で路面の状態を確認しながら、パームソナーで歩ける空間を探して進むという感じ」と話すのは、開発者の竹内潔さん(55)。製品はすべて、竹内さんが一つ一つ丁寧に組み立てる。これまでに、パームソナー(定価7万9000円)は450台、パームチップ(同2900円)は3000個を出荷、パームソナーを日常生活用具に認めた自治体もある。

 ■知識と技術を活かす

 竹内さんはもともと、大手自動車会社の研究所で衝突を防ぐセンサーの研究に従事していた。会社が技術からコストへと比重を移す中、自身の必要性を問い直し、40歳を迎えた1996年に退職。新たな道を思案していたとき、知人の「知識と技術を社会にいかしては」との言葉が心を動かした。以前から情報が入ってきていた視覚障害者の歩行に注目、「一番貢献できるのでは」と一念発起して開発に着手。研究所でなじみのあった超音波素子を使って振動するパームソナーを03年に発売した。その後、43段階あった振動に「細かくてわかりにくい」との声が寄せられ、昨年改良。絶対音感をヒントに人間の記憶可能な数として、七つの段階に絞った。

 さらに、パームソナーに適した白杖の開発にも挑戦。「白杖とは何か」を知りたくて、数多くの杖(つえ)を買い込んだりもした。その結果、杖先に改良の余地があるとの結論にいたり、スプーン型やおはじき型など、いろいろな形状を試作。06年、マッシュルーム型のパームチップ発売につながった。「突っかかって戻り、障害物を乗り越える」という動きは、小刻みな振動を与えて動かす超音波モーターの原理だ。

 ■今春、改良版も

 昨年から動画と音声で使い方を解説したCDの貸し出しを開始し、今春には、電池が少なくなっても振動の変わらない改良版パームソナーの発売を予定している。超音波素子の入手が困難を極める中、さらなる改良に取り組む竹内さんは「一人で思うように行動したい方に役立つものを作りたい」と力をこめる。製品は、福祉用具取扱店などに出荷しているほか、同社のホームページ(http://www.palmsonar.com/jp)でも紹介している。


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