復職への報告「歩行補助具の紹介」は、名古屋市立大学病院で働いていた田橋省司さんが中途失明のリハビリ中に、名古屋盲人情報センターのパソコン訓練の卒業講演として平成17年の秋にJRPS愛知支部会で発表した内容の文章をコピーpdf(176kB)したものです。翌年の春には、職種は変わったが、ぶじに復職できています。それから1年で、複雑な事務室の中でも白杖を使わずに移動できるようになり、外でも衝突を避けて、活躍されているとの報告がありました。(2007.10.12 )


「歩行補助具の紹介」

1 はじめに

こんにちは。ただ今紹介に預かりました「田橋」と言います。私は、平成15年夏ごろ失明した初心者マークの視覚障害者です。今日は、私が外出時使用している歩行補助具をご紹介させていただきます。私自身大変重宝している機器です。科学的根拠には乏しい話ですが、よろしくお願いします。

2 視覚障害者の外出方法

視覚障害者がどのような手段で外出しているかと申しますと、
・白杖自立歩行
・盲導犬同伴歩行
・ガイドヘルパーによる介助歩行
この3種類だと思います。
家族や友人の介助歩行については省略させていただきます。

それぞれの私の考える短所ですが、

白杖自立歩行は、
・障害物は杖に当たってはじめて認識できます。左右に白杖をしっかり振って歩いても、歩行スピードが速いと、杖で見つけられず、体に当たることもしばしばです。
・外出することに恐怖心が伴います。
3つの方法では、最も危険な歩行でしょう。

盲導犬同伴歩行では、
犬は、かわいい反面生き物という欠点があります。私もゴールデンリトリバーを8年間愛玩犬として飼っていますが、それは大変です。

ガイドヘルパーによる介助歩行ですが、
・予約時に利用時間を約束しますので、むやみに延長することは出来ません。
・ヘルパーによって「合う人」と「合わない人」があります。私も失明当時1月30時間ほど利用していましたが、人間関係はなかなか難しかったです。
・国会で「障害者自立支援法」が成立しましたが、1月の利用時間にも制限が生じると推測します。

それぞれの長所短所は、皆様方各人で考えていただけるようお願いします。

ただ今からご紹介します「超音波歩行補助具」は、白杖自立歩行で外出している方に有用でしょう。

3 超音波歩行補助具の種類と特長について

今日は、ウルトラアイ、ミルブル、モールスソニック、パームソナーを比較してみます。
内容は、今年3月ごろインターネットで調査したものです。
外形ですが、「モールスソニック」が最も長く、「ミルブル」が最も重いようです。
持った感触については、実際に体験してみなければ分かりません。

超音波の感知範囲についてですが、
ミルブル以外は、左右30度、上下60度と同じ範囲でした。

超音波の測定距離ですが、
ほとんどの機器に1メートルと4メートルが設けられています。超音波の広がりにもよりますが、私の経験では6メートルや8メートルの感知距離が必要か疑問です。全ての機種が「物体に接近するにつれて振動が変化する。」と説明がありますが、実際に歩行中それを敏感に感じ取れるか疑問です。私は出来ません。

電池ですが、
ウルトラアイとパームソナーはリチューム、
ミルブルとモールスソニックは、充電式です。

価格ですが、
ミルブルとモールスソニックは約4万円、ウルトラアイとパームソナーは約8万円です。
これらの金額が高いか安いかと言う話ですが、

盲導犬を1年間使用した場合、餌代と予防接種だけでも7万6千円は最低必要です。

では、ガイドヘルパーを利用した場合は、
1時間160円の自己負担で、1月50時間利用したと仮定しますと、9万6千円支払うことになります。

どの手段を利用して外出するかは視覚障害者の方の自己決定権に委ねられますが、歩行補助具がさほど高い物ではないということは言えると思います。

4 パームソナーの使用経験

パームソナーの使用経験をお話させていただきます。私は平成15年8月から名古屋市総合リハビリテーションセンター視覚指導課で歩行訓練を中心とした基礎的リハビリを受けました。今振り返ると、一人で外出できなくなって自宅に閉じこもっている生活は精神的に非常なるストレスでした。同年12月からバス、地下鉄、バスと乗り換えて自宅からリハビリテーションセンターまで独力で通所することができるようになりました。歩行訓練の功あって外出できる場所はどんどん増えていきました。

しかし、
・電柱とキスして額に傷を作ったり、バス停、信号待ち、駅ホームなどで他の人と頻繁に衝突したり、止めてある自転車や自動車に衝突したり、外出する時は恐怖心との戦いでした。接客業に携わっていた私にとって、後から他の人に思い切って衝突したりした時には良心が痛み、「仕事は出来ないな!」と落胆していました。

平成17年2月に、「人や物を上手に避けることが出来る機械があるよ!」と知人から紹介してもらいました。名古屋盲人情報文化センターにお願いしたら、運良く3月中旬から1週間デモ機を借用することが出来ました。使用してみると、軽量で小型であり、短距離内の切り替えが多く、前方80センチで左右に40センチ、超音波が広がることを知り、使用法が理解できてきたら、人を含めた障害物を認識できるようになり、外出に対する恐怖心が取り除かれていきました。早速購入し、4月から使用しています。

基本的持ち方ですが、前面の穴を縦に並べ、地面に平行に、腕を肋骨に押し付け、肘を軽く曲げて前腕を腹部に押し付けます。前方の穴を進行方向へ向け、初心者のうちは手首だけで左右に振ったほうが良いと思います。上達してきましたら、前腕を腹部から離して振ります。

距離設定の使い方ですが、私の経験では、屋外は2メートル、ビル内は1.2メートルか1.4メートル、駅ホームは1メートルか1.2メートル、を使用すると良いように思います。

これは重要なことだと思うのですが、障害物がなければ歩行速度が速くなりますので、危険を感じて停止するまで距離が必要です。超音波の広がりが大きければ、不要な障害物まで認識してしまいます。障害物が多い場所では、ゆっくり歩行することになりますし、歩行できる空間を探す必要があります。そのためには、超音波の広がりを少なくします。

ですから、「混雑しているな!」と判断しましたら、測定距離を1メートルか1.2メートルに設定し、左右によく振って振動を感じない方向にゆっくり歩きます。

私が、この歩行補助具を使用するようになって出来るようになったことは、何より歩行スピードが1.5倍になりました。平成17年2月ごろは、地下鉄「港区役所」から「名古屋盲人情報文化センター」まで約20分要していました。現在約12〜14分で歩くことが出来ます。白杖だけで歩行していた時に不安だったことはほとんど解決しました。

それに加え、
・ゆっくり歩く人の後ろについて歩いたり、
・列の後ろを確認して並ぶことが出来るようになりました。

しかし、歩行補助具を使用したら全てが便利になるわけではありません。私が不便を感じている事項は、左手に歩行補助具を持っているので、両手がふさがってしまうことです。

また、車高の低いセダン型自動車の前方から接近すると、障害物として十分確認できないように感じています。それは、丸い物体やふわっとした服を着ている人に超音波が当たった時も同じようです。

5 おわりに

超音波歩行補助具は白杖歩行が自立した方で、よりいっそう安全で安心して外出したい方に有用と考えます。超音波歩行補助具は地面から70センチ以上上しか感知してくれません。万能ではありませんが、白杖歩行を補ってくれる危険察知の一道具として日常生活に活用できる有用な手段です。視覚障害の歩行訓練士が100人以上を対象に、条件設定してそれぞれの機器のデータを取って有効性を判定していただけると有難いのですが。

トヨタのプリウスのように、時速30キロ以下ではほとんど音がしない車が多く普及し、今後、自動車の低公害化はますます進んでいくことでしょう。音が大きな情報源の白杖歩行自立視覚障害者にとって、音が非常に小さくなることは安全な自立歩行の障害になりかねません。

「技術革新が進むと、視覚障害者にとってバリアが高くなる。」という意見もあります。しかし、技術革新によって、視覚を補ってくれるものも多くあります。私は技術革新のおかげで、インターネットを利用して毎日新聞を読んでいます。視力低下が生じたころには新聞は読みませんでした。

10年ほど前、40代で中途失明していく方を何人か見たことがあります。彼らがどんどん何もできなくなっていったという記憶があり、私も「もうだめ!」と思いました。しかし、技術革新によって「復職できるのでは?」と思えるようになりました。ですから、「昔の名前で出ています」ではなく、文明の利器を活用して、少しでもより質の高い人生を送れるよう努力しようではありませんか。

ご清聴有難うございました。



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