歩行補助を考える

今までは、聴覚をたよりに、白杖をたたきながら、誘導ブロックを踏んでいきました。いわば、人間の潜在能力に期待して、なるべく簡単な道具を使って、それを公共施設で支えようという発想だと考えられますが、その限界や問題を考えた一例が、「直感と道具をホーム転落から考える」です。
それに対して、提案する方法では、聴覚で全体に気を配りながら、超音波ビームを振り、白杖を滑らせながら、周囲や路面に沿っていきます。いわば、人間の習得能力に期待して、なるべく機能の高い道具を使って、現場に対応しようという発想です。その「歩行補助の考え方」と、「(予定)ナビゲーションの考え方」を紹介します。(竹内潔)2011.11.14


 直感と道具をホーム転落から考える

原因

悲惨な事故です。ホームドア柵が話題になることが多いようですが、ホームドア柵は最後の砦ですから、その前にやっておくことがあるはずです。犠牲を無駄にしないためにも、再発を防止するには、酷なことを言うことになりますが、本質を冷静に分析するほうがいいのではないでしょうか。

直接の原因は、「白杖で確認せずに足を踏んだ」からではないでしょうか。うっかりかもしれませんが、習慣だったかもしれません。もしかして、軽視していたか、もしくは、教えられてなかったのかもしれません。こういう方は多いと思います。

基本ですが、「足を踏む場所は必ず白杖で確認」していけば、このような事故は避けられると思います。と言うか、そうでなかったら、また同じような事故が起こっても不思議ではないと思います。駅はたくさんあるのですから。

ホームドア柵

鉄道会社の担当者に聞いたことがあって、ホーム転落は、酔っぱらい、携帯しながら、考え事、、発作的、などが多数のようです。視覚障害者だから、という認識は感じられませんでした。陳情は大切ですが、期待しすぎて、待つだけにならないほうがいいと感じました。

誘導ブロック

ホーム転落を誘発する要因の一つは、「今の誘導ブロック」ではないかと考えられます。出っ張りだと、足の裏には伝えやすくても、白杖に伝えるのには向いてないからです。足で探すのが習慣になる恐れがあります。

事故は、「もしも」の時に、「まさか」の確率で起こります。もしも「今の誘導ブロック」から外れた場合、足裏で探しながら、まさかの、ホームの端に向かう姿がイメージされて、怖くなります。

白杖で分かりやすいのは、出っ張りよりも、引っ込みですし、「この上を歩け」というより、「この外は危険」というほうが、自由でありながら安全になる一案と考えます。

歩行訓練

「今の歩行訓練」にも、ホーム転落を誘発する要因があるのではと考えられます。それは、「白杖の構えは、体の中央で、腹の前で」という基本の教えです。「浮かせた白杖で、たたく」のも基本のようです。「白杖で体の防御」というのもよく聞きます。

広い道なら「腹の前で」もいいですが、狭くて混雑するホームでは無理だと思います。それでも、教えを守ろうとすると、「腹の前に白杖を立てて、体の防御」、つまり、白杖で足元を確認せずに歩いてしまい、事故につながる可能性があります。可能性ということは、いつか、誰かに、必ず当てはまるだろうということです。

とっさの時は、基本に戻ります。常に路面から杖先を離さないのを基本にして、教本を再構築させるのも一案と考えます。

道具

「白杖で確認しない」理由の一つに、白杖の使いにくさがあると思います。昔ながらの白杖は、杖先が突っかかりやすいので、操作が難しいと思うからです。突っかかりにくい杖先(パームチップ)が開発されているので、正しい理解や、補装具費への補助などをとおして、普及が望まれます。

「聴覚をたよりに歩く」のもホーム転落の原因になると考えています。ホームでは音が複雑に反射したりするので、方向感覚を間違える可能性が高くなるからです。周囲の様子を分かりながら歩けるように、超音波の道具(パームソナー)が開発されているので、これも正しい理解や、日常生活用具への設定などをとおして、普及が望まれます。

意識

ホーム転落につながる原因は、数々と思いつくのですが、根底には「意識の問題」がある気がします。まだまだ、「白杖をためらう人」がいたり、「(聴覚をたよりにして)直感で歩ける人が賞賛」されたりします。限られた場所でならいいですが、公共の場所では危険だと思います。結果的に、ホーム転落になったり、「直感で歩けない人」を一人で外出しない人にさせている気がします。ホームドア柵に期待する気持ちも分かります。

仕事や安全などの教えでは、例えば、「勘に頼るな」というのがあります。微妙な違いに気づくには勘が大切ですが、しかし、「実行する段になったら、(道具を使って)客観的に確認しろ」ということです。

損なわれた視覚を補うとしたら、それは、個人に属するくらいの「いい道具」ではないでしょうか。「直感を活かしながら道具で確認する」のが望ましい姿だと思います。弱視の方々の理解と協力もいただきながら、その意識を共有できれば、新しい道具、新しい訓練、新しい誘導ブロックなどをとおして、ホーム転落などを防ぐ安全だけでなく、積極的な外出と社会進出にもつながると考えます。


 歩行補助の考え方

歩きは制御

歩きは制御(コントロール)の集大成です。立っているだけでも、バランスを制御しますが、もし、応答が遅かったら、倒れてしまいます。倒れる方向や速さを制御していくと、歩きになります。

制御とは、「結果を目標どおりにするやりくり」といえます。誰でも無意識にやっていますし、機械だけでなく、体温を一定にするのも、制御といえます。制御と考えれば、補助の仕方があります。

制御では、応答が遅いか速いかが大事です。まっすぐ一定に歩いている時はよくても、歩き出す時とか、曲がる時とかの、変化の時に問題が出やすいからです。変化の計算は微分ですが、それは、時間や周波数などの数値で比べられます。

結果を知る役割をセンサと呼びます。バランスを知るセンサは、耳の奥にある三半規管です。頭を回した後では、いわゆる「目が回る」と、三半規管が混乱して、歩けなくなります。まっすぐ歩くコツは、頭を振らずに、垂直に立てて、姿勢よく歩くことだといえます。

2つのセンサ

視覚も、周囲と足元の2つに注目できる、歩くための高度なセンサです。単純な道具に置き換えるには、2つのセンサに分けます。

例えば、周囲を知るセンサはパームソナー、足元を知るセンサは白杖です。しかし、広い意味では、振り向ける仕組みまで入れて、腕から超音波ビームの先までが周囲センサ、腕から杖先までが足元センサと考えます。

手を使うのは、知りたい方向へ、自由に向けられるからです。振動を感じやすいこともあります。両手でセンサを分担するのも、両方を混乱しにくいからです。

頭から遠いのも、手を使う理由です。脳を邪魔せずに、もっと高度な判断に使えます。聴覚は、迫ってくる自動車や、周囲の広がりなどを知るのに重要です。バランスを知る三半規管もあります。

問題なのは、センサが2つなのに、判断する脳は1つなことです。そこで、脳の負担を少なくするため、主に使うのは1つだけにして、他は止まるだけの単純な判断にします。場合によって切り替えるので、両方の使い方を似させています。

センサの応答

安心して歩くには、安全なのを速く確認することです。応答が遅いと、人の感性に付いていけなくて、思うほどに歩けずに、ストレスになって、安全が手薄になる恐れがあります。パームソナーは、小型にしたり、振動の切れを良くなどして、応答を速くしています。

今までの白杖では、杖先が路面と結合する瞬間があって、突っかかりを避けるために、職人芸のような、複雑な制御が必要だと考えられます。杖先をパームチップにすることで、杖先と路面との結合を切り離せるので、制御を単純にできて、誰にも使いやすくできます。



 竹内潔 テイクス代表。日産自動車の研究所で、超音波などのセンサや自動操縦などに関わり、その技術を障害者に役立てる。京都大学卒、ペンシルベニア州立大学院卒。「自動車会社でやっていたことは、視覚障害者の歩行補助に似ていましたが、企業の外に出にくい、原物を扱う基礎の部分なので、一般の企業や大学などに知られることは少ないと思います。しかし、そこが、おろそかだと、作ることも、教えることも、使うことも不完全になるでしょうし、歩きを語るなら、欠かせない技術だと思います。ただし、車と似ていますが、歩きでは初めてなので、検証と改良を重ねていくことが必要と考えます。」


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